|
後 朝 私の意識が動き出したのは、窓の外から白い光がこぼれて入ってくるころだった。 薄ぼんやりとした目覚めと同じくらい薄ぼんやりとした光。 それが心地よくて、いつまでもこのぼんやりとした空間に浸っていたいと感じてしまう。 しかし、残念ながら朝日に誘われたまぶたは徐々に強くなる光とともに上へと上がってしまい、目の前の風景がくっきりと形を持ち始める。 そして気がつくのは、自分の頭の下のやけに固い枕。やけに暖かい背中。 それから目の前のどう考えても不自然な位置にある自分の手。 私の手はこんなに大きかっただろうか・・・。 そんなことを思っていたらもそりと背中の温度が動くのを感じ、まだまどろみの中にいた私は急速に現実に引っ張られる。 ギギギと音が鳴りそうなほどゆっくりと後ろを向くと、そこには朝日に照らされ、見とれるほどに美しい神がいた。 美しいという言葉がこれほど似合う人はいないだろうと心から思い、 この人はこんなに美しかったのだと妙に実感した。 体を起こしてその寝顔を息を止めて見つめていたのはたぶん数秒だっただろうに、ずいぶん長いこと意識がとらわれていたようにも思う。 ふと、体が外気にさらされ冷えてきたことに気づいた。 暖かい場所へもぐりこもうと、自分と探偵さんの体を見て今度は心臓から一気に冷えた気がする。 「わあ!」と叫びそうになったが、その声は私の手に阻まれ、口の外へ飛び出すことはできなかった。 自分と探偵さんが裸だったことにも驚いたが、自分の胸元に無数に散らばった花のとにも心臓が口から出てきそうなほど驚いた。 それをまじまじと見つめると、昨夜の熱に浮かされた時間が頭の中を駆け巡る。 今度は心臓がバクバクと音を立て、全身の血液を顔に送っているんじゃないかと思えるほどに顔が熱くなってきた。 思い出すのは探偵さんの手が私に触れた時の手のひらの強さや熱さ。 探偵さんの唇が私に触れた時の優しさとそこから広がる幸福感。 「好きだ」とささやく声が体に染み込むたびに涙が出そうだった。 これほど自分が女でよかったと思ったことはない。 探偵さんの唇を見つめると誘われるように自分から顔を近づけてしまう。 そしてふと思った。 そういえば私は昨夜、ささやいてくれた声に答えられたのだろうか。 熱の波に流され、何も答えられなかったような気がする。 今なら言えるかなと 「探偵さん・・・」 とつぶやいたそのとき。 探偵さんの目が突然、私の声に反応したように開いた。 きっと、パチッという効果音が一番あっていたと思う。 私は今度こそ 「わあ!」 と叫んだ。 「おはよう女学生君!」 と探偵さんは満足そうに笑って、いつものように快活に朝の挨拶を私に投げた。 一方、私は 「あ・・・」 とか 「う・・・」 とかよくわからないうめき声が出てきてしまうだけ。 しかし、探偵さんにはそんなことは関係ないようで、ベッドに頬杖をつき、私の顔を見つめ、すねたように言った。 「どうしてちゅうしてくれないのだ!」 体のほうに残っていた血液がすべて顔に上がってくるのを感じ、本当に顔から火が出るんじゃないかと思った。 火どころかきっと大火事だ、山火事並だ。 それでもおかまいなしに探偵さんは言葉を続ける。 うーん・・・と猫のようにしなやかに伸びをしてから 「さあ、目が覚めたんだ。一緒にお風呂に入るのだ!」 と、まるで至極当然のことのように。 私の頭は固まってしまい、自分じゃ動かせるかどうかもわからない。 しかし、探偵さんにギュッと抱きしめられた瞬間に、私の口は反射的に動いた。 「無理です!」 言った声は叫びに近かったんじゃないだろうか。 そこから、神の機嫌は急降下し、 「なぜだ!!??」 という言葉が返ってきた。 「無理なものは無理です!」 私もつい、負けじと言い返す。 そして、神は駄々っ子へと変身するのだ。 「やだ!」 「無理です!」 「やだ!」 「無理!」 子どものケンカのような攻防戦。 しばらくそれを繰り返すと、急に探偵さんがまじめな顔になり、ドキッとしてしまう。 それから、そっと私のまぶたに口づけ 「大好きだよ」 と言った。 この人はいつだってずるいのだ。 この人にしか使えない私専用の呪文をこの人は誰より知っているのだから。 貴方だからこそ この体は熱を知り 貴方の言葉だからこそ 私の心は反応する 「私も大好きです」 |